本、読んでみない?

紙の本をこよなく愛する読書マニアによる読書のススメ!本、読んでみない?

心を具現化。感情を擬人化。「これは王国のかぎ」

皆さんこんばんは!

 

台風が過ぎ去ったものの

交通機関が麻痺して大変な1日でしたね・・・。

皆さんやご家族のご自宅は大丈夫でしょうか?

今年はもうこれ以上台風が来ないことを祈っています。

 

 

それでは今日の本の紹介に移らさせていただきます。

今日は荻原規子さんの作品を紹介します!

 

前回は、空色勾玉(勾玉三部作)でしたね。

古代日本を舞台とした和風ファンタジーでしたが

今回は西洋ファンタジーになります。

 

千夜一夜物語というものをご存知でしょうか?

アラビアのとある王様が

寝付けないところを付き人が毎晩聞かせた

眠る前のショートストーリーをあつめたものです。

 

今回の舞台は、アラビア。

そして実在した歴史人物をモデルにした

これまたタイムスリップ物語です!

 

「これは王国のかぎ」

 

1. 目覚めると、そこはアラビアンナイトの世界

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https://www.amazon.co.jp/これは王国のかぎ-ファンタジーの冒険-荻原-規子/dp/4652073011

 

ヒロミが目を覚ますと

そこはアラビアンナイトの世界でした。

 

なぜ自分がここにいるのか。

来る前は何をしていたのか・・・。

 

はっと思い出しました。

 

そうだ、失恋したんだ・・・。

 

ヒロミはさっきまで失恋が原因で

自暴自棄、自己嫌悪に陥っていたことを思い出します。

 

「どうせ私なんて・・・」

 

好きな人を親友に取られて

でも親友は憎らしいほどいい子で

きっといいことがあると思っていた15歳の誕生日に

失恋で自己嫌悪に陥っている。

 

自分、サイテーだ。

 

そんな考えが心に巣食っていたひろみだからこそ

力の持ち主に選ばれたのでしょう。

 

ここ、アラビアンナイトの世界では

ヒロミは魔神族になっていたのです。

空も飛べるし火も操れる。

 

そんな彼女を幸運の象徴として

勝手に旅のお供に決めて連行したのが

王国の王子、ハールーン。

 

そう、786年〜809年の間、イスラム帝国アッバース朝でカリフを務めた

ハールーン=アッラシード

をモデルにした(と個人的に思っている)人物が

ひろみの異世界での生活をかき乱していくのです。

 

 

2. ヒロミの冒険譚

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https://www.amazon.co.jp/これは王国のかぎ-C★NOVELSファンタジア-荻原規子-ebook/dp/B00AQY8GF6

魔神族となったひろみは

ハールーンとともに旅して

彼を支えていくことになります。

 

よくある小説なら

ここで大体主人公の恋が始まるのですが

 

ヒロミは失恋したばかりです。

もう自分なんてどうでもいい。

 

そう思っている状態で恋なんて始まりません。

それどころか、この世界のことを

どこか他人事のような目で見ているのです。

 

そんな少女が異世界での生活を通して

徐々に目の前のことに一生懸命になっていきます。

 

失われていた自分が、戻ってきます。

本当は熱い心を持っていて

面倒見がよくて

人のことに全力になれる子。

 

そんな本来のヒロミを取り戻したこの王国とか

一体何なのでしょうか?

 

 

3. 王国のかぎとは?

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https://www.amazon.co.jp/これは王国のかぎ-中公文庫-荻原-規子/dp/4122048117


 

この本の冒頭に、マザーグースの詩が載っています。

 

これはおうこくのかぎ
そのおうこくに としがあり
そのとしに まちがあり
そのまちに とおりがあり
そのとおりに こみちがくねり
そのこみちに にわがあり
そのにわに いえがあり
そのいえに へやがあり
そのへやに ベッドがあり
そのベッドに かごがあり
 かごのなかには あふれるはな
はなはかごに
かごはベッドに
ベッドはへやに
へやはいえに
いえはにわに
にわはこみちに
こみちはとおりに
とおりはまちに
まちはとしに
としはおうこくに
 これはそのおうこくのかぎ  
  「マザー・グース3」(講談社)より
           谷川俊太郎・訳

:: 立ち読み || これは王国のかぎ || 角川書店 ::


王国のかぎとは何なのでしょうか?

 

その答えは

物語が始まる前から

すでに見つかっていたのです。

 

ヒロミが飛ばされたアラビアンナイトの世界が「おうこく」で

ヒロミが「あふれるはな」だとしたら

 

王国に飛ばされたと思っていたヒロミは

実はすでに王国を構成する一部だったと言えます。

 

王国とは、別世界ではなく

ヒロミの心が生み出した世界なのではないでしょうか?

 

そして登場人物は

ヒロミの心を構成するひとつひとつの感情で

それらと向き合った結果、ヒロミは強くなって戻ってきた。

 

そう考えると、この物語の奥深さに驚愕します。

 

ただのファンタジーじゃない。

15歳の少女が生み出した心の中の物語。

そのひとつひとつの感情を

抽象的なものから具体的な「キャラクター」として擬人化させ

直接会話することで向き合う。

 

こんな物語、見たことがありません。

 

子どもが読むと「自分もいつかいけるかもしれない」という夢物語。

でも大人が読むと自分の心を具現化した現実物語に変化するのです。

 

ぜひ、一度だけでなく

何度も読んでほしいです。

 

心が折れそうになったとき

自分が嫌いになったとき

心が疲れて立ち上がれなくなったとき

 

あなたの物語は

いつもそこに

手を伸ばせば届くところで

あなたが訪れてくれるのを

待っています。

 

それでは、今日はここまでにしましょう。

次回は青春小説に行ってみましょう!

ジメジメした天気を吹き飛ばせそうな

カラッとしたお話を紹介します。

 

お楽しみに!

 

 

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これは王国のかぎ (中公文庫)

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これは王国のかぎ (角川文庫)

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